ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

アメリカン・ユートピア

2021-05-28 00:05:15 | あ行

最高!マジで踊り出しますよ、身体が!

 

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「アメリカン・ユートピア」79点★★★★

 

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元トーキング・ヘッズのデイヴィッド・バーンが

2018年発表のアルバム「アメリカン・ユートピア」のツアーを発展させて

2019年に初演したブロードウェイ・ショー。

 

上映後、大評判になるも

2020年にコロナ禍で再演が幻になってしまった――という

その伝説のショーを

あの、スパイク・リーが完全映画化!ということで

なんというタイミング。

いや~、期待度MAX!

 

で、実際に期待裏切らず、

いやそれ以上に

久々にお尻が座席から浮き上がる

ウッキウキを体験しました(笑)

 

装飾を一切排した舞台上に

現れるデイヴィッド・バーン。

撮影当時、御年67歳。

しょっぱなこそグレイヘアの彼に

「うわ~、歳取ったかなあ」と思ったけど、

いやいや、声の張りに変わりなし!

ニヤリとしてしまう。

 

で、続いてダンサーとミュージシャンたちが登場。

全員がお揃いのグレーのスーツで裸足。

しかもキーボードやパーカッションなどの楽器を肩から提げて

まるでマーチング・バンドのようなんです。

 

舞台上には配線も、マイクも一切なし。

完璧にミニマルな空間で

バーンはじめ全員が

キレッキレに歌い、演奏し、走り、踊るんですよ~~

 

余分をそぎ落とした美学と

ほとばしる生身の人間のパッション。

その融合を、スパイク・リー監督が冴えた編集でつないでくれる。

うひゃ~気持ちいい!(笑)

 

バンドメンバーは多国籍で

歌にも語りにも、社会へのメッセージが内包され、

すべて一歩先ゆくエッジが効きまくる。

 

でも、決して説教臭くもなく

頭でっかちでもなく

とにかく楽しい。

 

お若い方は知らんかもしれませんが

超名作「ストップ・メイキング・センス」(ジョナサン・デミ監督、1984年)を

高校時代に知って、Tシャツ買うほどハマったワシとしても

実に感慨深く

でも、そんな古きを知らなくても、

最先端として楽しめると思うんですよね。

 

「ストップ~」から37年。

本当に、この方は

音楽とパフォーマンス、視覚の楽しさをつなげることに長けている

最高のアートパフォーマーだと改めて感じました。

 

それに、やっぱり

若い頃より「やさしく」なってるんだと思う。

いろいろ考えることはあるけど

まずは踊りながら、楽しみながら考えようよ。

それが音楽の、アートの力だぜ!と

示してくれているんだと思います。

 

トーキング・ヘッズ時代の曲を含む21曲を

たっぷり堪能し

そしてラストはもちろんあの名曲!

さあ、ご一緒に!

 

★5/28(金)から公開。

「アメリカン・ユートピア」公式サイト

※上映状況は公式サイト&各上映館の情報をご確認くださいませ。

コメント (4)
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やすらぎの森

2021-05-23 01:00:51 | や行

決して「ほっこり話」ではなく

渋く苦いところが、ミソです。

 

「やすらぎの森」73点★★★★

 

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カナダ・ケベック州に広がる

広大な森林地帯。

 

人里離れた湖のほとりで

3人の年老いた男たちが、それぞれ小さな小屋で

気ままに暮らしてる。

 

チャーリー(ジルベール・スィコット)、

元さすらいミュージシャンのトム(レミー・ジラール)

そして

画家のテッド(ケネス・ウェルシュ)。

 

が、ある朝、チャーリーは

テッドが小屋で静かに息を引き取っているのを見つける。

 

そんなとき、彼らの前に

若い女性写真家(エヴ・ランドリー)が現れる。

彼女は、かつてこの土地に大きな被害をもたらした

大火事の生存者を取材していた。

テッドはその生存者だったのだ。

 

さらに、彼らの前にもう一人の女性が現れる。

それは80歳のジェルトルード(アンドレ・ラシャペル)。

彼女はある事情で長年、精神科の療養施設に閉じ込められてきた。

 

森のなかで大きく深呼吸をする彼女を

チャーリーは

ここに住まわせてやろうとするが――?!

 

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カナダの森で隠遁生活を送るおやじたち。

そこに過去を背負ったある女性がやってきて――というお話。

 

まず

こんな時代に、まさに理想のような

人里離れた森と湖の土地で暮らすおやじたちが映り

うわあ、マジ、理想!と思った。

 

大好きな画集

吉田誠治氏の『ものがたりの家』のなかで

ワシの一番理想だった湖畔のボートハウスに犬と暮らす男性、

そのまんまな暮らしなんだもん!

 

実際、カナダの森と湖の風景は美しく、

作品のタッチは穏やか。

そのなかで、人生の最終章へと向かう人々の

人生への向き合いかたが映るのですが

 

これが

決して「ほっこり話」ではないところがミソなんですねえ。

 

映る景色は、美しいけれど

快晴の青ではなく、どこまでも霞んだブルーで

 

そこに小屋を建て、暮らす老人たちは

気ままで自由だけれど

その内面はなめし革のようにさまざまを刻んで、苦く、渋い。

 

次第に明らかになる彼らの人生から

その過去が、苦悩がジワジワと染み出てくる。

ドリーミーでファンタジーな老後、でない苦みが、

余計に、自分の「これから」を考えさせるのです。

 

独り居は、決して甘くない。

それでもやっぱり、こんな場所で

きままに、最愛の相棒や友と暮らし

(ただし道連れにするのは、自分にはやっぱりできないけど!

できればこんな最期を迎えたい――と思ってしまうのは、

「自己チュー思考」の極みなのかしらん。

いや、でも、やっぱり・・・とか、考えてしまう。

 

いっぽうで

80歳のヒロイン、ジェルトルードを演じる

アンドレ・ラシャペルは

1931年生まれ。

「ケベックのカトリーヌ・ドヌーヴ」ともいわれた方で

本作を引退作として、70年の女優キャリアに終止符を打ったそう。

「素晴らしい職業に就き、素晴らしい幕引き」と

プレス資料のインタビューでも語っている彼女は

本作出演後、2019年に88歳で亡くなられたそうです。

最後まで、やりきる。

それもまた、憧れるんだよなあ――

 

どうしたいのか、ワシは(失笑)

 

★5/21(金)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「やすらぎの森」公式サイト

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茜色に焼かれる

2021-05-22 01:12:12 | あ行

石井裕也監督、これは凄い。

 

「茜色に焼かれる」80点★★★★

 

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中学生の田中純平(和田庵)は

母親の良子(尾野真千子)と二人暮らし。

 

7年前、父(オダギリジョー)が理不尽な事故で亡くなったとき

母は慰謝料を受け取らず、

昼の仕事と、夜のバイトを掛け持ちし

必死に働いて、純平を育てていた。

 

つましくも、平和に暮らしていた母と純平。

 

――が、

コロナ禍の余波で、母は仕事を追われてしまう。

 

さらに純平は同級生に

いじめを受けてしまい――?!

 

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いまの世の中すべてへの怒りを、

自身が思慕する「母」のかたちを通して発露させた

スゴイ映画だと思います。

 

前作「生きちゃった」(20年)、そして

監督のエッセイ『映画演出・個人的研究課題』の取材でも

石井監督にいろいろお話を伺ったのですが

ここでもちょっと読めます。AERAdot

 

石井監督は7歳(小学1年生)のとき

お母さまを亡くされているんですね。

で、取材のとき

「いま『母親』に向き合って、かなり自分を追い詰めて新作を撮ってる」とおっしゃっていた。

なので、かなり

ドキドキしながら観ました。

 

そしたら、これがすごかった。

 

とことん自分に向き合った内容、さらに

エッセイにも多く書かれていた

いまの歪んだ社会への怒り――を見事に昇華してあって

その作家魂に、うわお!と感じいりました。

 

 

ブレーキとアクセルを踏み違えた

老人の自動車に殺された若き父(オダギリジョー)。

元官僚とかいう加害者の老人は逮捕すらされず、謝罪すらない。

 

残された母(尾野真千子)は慰謝料を受け取らず

パートと風俗バイトを掛け持ち。

 

しかし母は恨みつらみではなく

「ま、がんばりましょ」を口ぐせに日々をこなし、

中学生になった息子を育てている。

 

それは達観からくるものなのか、悲しみを超えたものなのか。

その姿はたくましくもあり、悲哀でもある。

 

劇中、シーンの合間合間に

母のバイトの時給や、二人が暮らす都営(たぶん)住宅の家賃がテロップされて

ああ、リアル。

 

そんなか、息子の同級生は「お前ら税金で暮らしてんだろ」と

お門違いのいじめを繰り返すんですよ。

 

不平等、不公平、理不尽がまかりとおる

余裕のない社会で、人は人を助けられず、

他者をヘイトしたり、蹴落とすことで生き延びようとする。

そんなサイテーな世の中に

 

何かをぶちまける!

 

そんな監督の想いと

それに呼応して

魂を振り絞る尾野真千子氏の演技に、本気で震えました。

 

作者自身の、心から生まれた「塊(かたまり)」を

体現し、表現してくれる役者って凄いなあとつくづく。

 

マスクにフェイスガードの世界が

貴重な「いま」を残していると同時に

 

描かれる母の姿は、やはり監督のまぶたの母なのか、と思わせるのが

土手を母子が自転車で走るシーン。

良き時代の松竹映画のように、清らかでまぶしくて

 

ああ、この世界は、本気で

なんとかならないものだろうか。

 

★5/21(金)から公開中。

「茜色に焼かれる」公式サイト

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海辺の家族たち

2021-05-15 17:12:50 | あ行

「キリマンジャロの雪」(11年)も、素晴らしかったよねえ。

 

「海辺の家族たち」72点★★★★

 

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マルセイユ近郊の港町。

かつては別荘地として栄えたこの土地も

いまでは古くからの住民が残るのみ。

 

そんなさびれた町に、パリからアンジェル(アリアンヌ・アスカリッド)がやってくる。

老父が倒れたと聞き、20年ぶりに故郷を訪れたのだ。

 

いまや人気女優となった彼女は

この町で3人兄妹として育っていた。

 

彼女を迎えたのは

長兄(ジェラール・メイラン)と次兄(ジャン=ピエール・ダルッサン)。  

久し振りの再会を喜ぶ3人だが

兄妹の間はどこかぎこちない。

老父の介護をどうするのか、この家をどうするのか。

これからを考えねばならないなかで、

それぞれが持つ思い、そして哀しい過去があらわになっていく――。

 

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「マルセイユの恋」(96年)「キリマンジャロの雪」(11年)で知られ

市井の人々をみつめるその視線から

フランスのケン・ローチとも言われる

ロベール・ゲディギャン監督の新作です。

 

兄妹の不仲、老父の介護など「あるある」な家族の問題に

難民、という現代の問題を織り込み

いまを、そしてその先を見通す、まなざしがある。

 

舞台となるマルセイユの

どこか切なげに淡く霞んだ陽光が美しく、

彼の作品の常連にして味アリアリの

俳優たちの妙技を楽しめるし

 

特に難民の子らが登場する終盤に

グッと物語が動き、余韻をもらえます。

 

ただ

正直に言うと、そこにたどり着くまでの家族話は

やや「よくある」話にも思えるし

 

なにより登場人物たちが

いまいち好ましくないキャラばかりで(苦笑)

最初は入り込みにくいかもしれない。

まあ、そこも監督の計算なんだと、気づくんですけどね(笑)

 

たとえば

次兄を演じるおひげのジャン=ピエール・ダルッサン、ワシ好きなのに

この役はいかにもな皮肉屋で

差別的発言がいちいちイヤな感じだったり

 

末の妹アンジェルも

事情はありそうだけど、あまりに物憂げすぎるし

さらに

母親ほども離れた彼女に

熱烈なアプローチをする地元の漁師もちょっと怖い・・・(苦笑)

 

でも、そんななかで

父と想い出ある土地を

黙々と、献身的に世話する長兄の尊さが光るし

 

それにですね

それほどに想いも性格もバラバラな兄妹たちが

難民をつかまえようと港を張ってる警備隊に対し

一様に「反抗的な」態度をとったりするんですよ。

 

そこに

ベースにある「家族」ならではの共有、結束もとい結託(?笑)のようなものを感じて

それが、ラストへとつながっていくあたりは

さすがゲディギャン監督、と感じるのでした。

 

変わりゆく時代や世界。

それでも家族は再生する。

どんな形かはわからない。でもきっと再び進み出す。

そんなことを、伝えているのだと思います。

 

★5/14(金)からキノシネマほかで公開。

「海辺の家族たち」公式サイト

※上映状況は公式サイトおよび劇場サイトなどでお確かめください

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ファーザー

2021-05-13 23:58:19 | は行

これね、ワシはホラーだと思いましたよw

 

「ファーザー」74点★★★★

 

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英・ロンドン。

アン(オリヴィア・コールマン)は

一人暮らしの父アンソニー(アンソニー・ホプキンス)の家に急いでいた。

 

父・アンソニーは81歳。

記憶にほころびが出始めた彼を

アンは心配し、介護人を頼んでいるが

父は彼らをことごとくクビにしていた。

 

しかし、アンにはパリに引っ越す計画があった。

そうなると

父の面倒を頻繁に見られなくなる。

 

「なんとか介護人を受け入れてほしい」と父に話すアン。

が、父には

ほかに探るべきことがあった――?!

 

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祝・アカデミー賞主演男優賞&脚色賞、受賞!

これは

アンソニー・ホプキンス氏の最高潮といって

なんら間違いないでしょう!

 

高齢といっても

自分で買い物もでき、食事の支度もできる主人公アンソニー。

一見、普通の暮らしぶりにみえて、

しかし

あれ?いま、話していたのは娘だよな?

え?このいけすかない男、娘のダンナだったよな?――ん、違ったっけ???

 

そんな高齢者の記憶の混乱を

ミステリーに転じさせていくこの展開は

なにより、ホプキンスの醸し出す「凄み」あってこそといえる。

 

ホプキンス自身が

「自分の父親を思い出した」と言っているとおり

誰にでもリアルな状況を、迫真で演じた彼が

スゴイです。

 

 

映画の舞台は、アンソニーの家。

同じ部屋の風景、同じキッチンなのに

写るたびに、

びみょーに物の置き場所が違ったりする。

 

そんななかで

娘と思っていた人物が入れ替わったり

ヘルパーと思っていた人物が入れ替わったり。

 

で観客も

「ん?」「え?」な世界に引きずり込まれていく。

 

これは

認知機能が低下した高齢者の見ている「世界」の描写で

その「え?」の戸惑いは

その本人にとって

ミステリーであり、サスペンスフルな状況なのだと

まず、本作は表しているのだと思うのです。

 

それは本人にとって恐怖なのだけど

 

同時に

どんなに部屋の様子や、彼を取り巻く人が変わっても

彼自身=アンソニー・ホプキンスが

そこに「いる」ことだけは変わらない。

 

そのことが

彼の面倒を見る立場にある娘(オリヴィエ・コールマン)にとってもまた

ホラー以外のなにものでもないのだ――ということが

リアルに伝わってくるところが

痛く哀しく、

絶妙なおもしろさでもあるのでした。

 

とりあえず、老親に電話、電話・・・・・・(苦笑)

 

★5/14(金)から全国で公開。

「ファーザー」公式サイト

※上映情報は公式サイト&各映画館のサイトをご確認ください。

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