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ジゼルが大人にしたアルブレヒトという男




「続・謎解き「白鳥の湖」 王子はなぜ心変わりするのか」で、クラシック・バレエに登場する男性が誰も彼もボンクラで頼みにならないのはなぜなのかというわたしの長年の疑問に関して考察を試みた。わたしが出した結論は以下のようなものだった(なんとかの考えは休むに似たりと申しますが)。


「そういうわけで、バレエの物語を初め、ロマンティックなお話に登場する王子が誰も彼もそろって優柔不断でボンクラに見えるのは、お話の焦点が、実はもともとは美しい姫や魔法や悲恋にあるのではなく、男をどうやって大人にするかという類いのお話だったから(で、時代とともに焦点がボケできたから)と言えるだろう。

現代の先進国社会では、何割かの男が一生大人にならなくてもコミュニティが継続して行けるだけのシステムが整っている。しかし人間の歴史の長い間、多くの共同体では「大人の男」が一定の数そろわなければそれが存続の危機に瀕する、という知恵が共有されていたのだと思う。特にコミュニティをリードする役目を負う酋長や王の息子という立場の人間には大きな期待がかかっていただろう。」


昨夜、ミハイロフスキー・バレエ (The Mikhailovsky Ballet) 公演でロンドン・コロセウムに来英しているポーリーナ・セミオノワ (Polina Semionova) の踊るジゼルを見ながら「ああこのお話はまさにアルブレヒトを男にした話じゃないか」と思った。

セミオノワはバレエにふさわしい美形ながらも実は筋骨隆々、それにもかかわらず「死んで精霊になった女」の空気のような軽さ透明さ実体のなさをあのように表現できるなんて...特に腕のオーラに圧倒された。次は彼女の白鳥の湖が見たい! 
左の写真はThe Daily Balletから拝借した。



ジゼルのお話はご存知だろうか。
ジゼルは心臓が弱く、踊りが好きな村娘だ。アルブレヒトは公爵の身分を偽ってジゼルに接近し、二人は結婚を約束するまでになる。ジゼルに恋する森番のヒラリオンはこの状況が気に食わない。
ある日ヒラリオンはアルブレヒトがただ者ではない証拠として、村の小屋に隠された剣とマントを発見する。

公爵としてのアルブレヒトには婚約者(大公の娘)がおり、ある日狩りの途中に大公ご一行がジゼルの住む村へやって来る。大公の娘はジゼルが婚約中であることを知り祝福するが、ヒラリオンが剣とマントを持ち出し、アルブレヒトの二股を暴露する。
アルブレヒトの裏切りに錯乱したジゼルはそのまま死んでしまう。

この地方では結婚前に死んだ娘は精霊になるという。
深い森でジゼルは精霊の仲間に迎え入れられ、ヒラリオンとアルブレヒトが墓参りにやって来る。精霊の女王ミルタには男を死ぬまで踊らせるという役割があり、ヒラリオンは殺されるが、アルブレヒトはジゼルの命乞いが叶い生き残る。ジゼルは朝焼けとともに消えてなくなる。


ヒラリオンとアルブレヒトが訪れる精霊の深い森とはもちろん死後の世界のことであり、通過儀礼として擬似的に死んだアルブレヒトはこの世へ生還し、集団のリーダーとしての「大人の男」になった。ジゼルの命とひきかえに。
その後のことは語られていないが、おそらくアルブレヒトはジゼルのことを忘却して(つまり大人になり)、大公の娘と何もなかったかのように結婚したのだろう。


時々、アルブレヒトの非道さや嫌なヤツさ具合ばかりが取り上げられる。最近もバレエ関係のタンブラーでアルブレヒトは○の穴野郎であると盛り上がっていた。しかしそこは重要な点ではないと見てよい。男を大人にするのが主題のお話なのだから、アルブレヒトはジゼルを愛していたけれども共同体存続の為には大公の娘を選ばざるを得なかったと解釈するしかない。
女が死に、彼女に会う為に黄泉の国へ侵入した(通過儀礼)男が、精霊に取殺されそうになるという試練を経てこの世へ生還し(ギリシャ神話のオルフェかイザナギのように)、立場上するべきことをした、というのが重要なのである。
ヒラリオンは帰還せずに死んでしまったので、通過儀礼に合格しなかった男、という立場か。


ある種の物語に型があり、古典が語り継がれるのには人間が人間であるための理由が隠されていると思うのである。
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すみれの花咲く頃




わが家の貧相な前庭にも朝露に濡れてすみれの花が咲き、午後早くに娘を学校に迎えに行ったら待ちに待った春休みが始まる。

春何故人は汝を待つ。
すみれの花咲く頃。



9月始業6月終業の欧州の学校では12月、3月、6月が一番忙しいと思う。
大きな試験があると同時に、時期的に行事がかたまる(12月はクリスマス、6月は学年末、3月は復活祭と各種発表会や競技会など)傾向があるからだ。
普段は結構ヒマなわたしも、3月はコンサートやコンペティションなどでほとんど毎日学校関係の外出がある生活だった。

5月は修学旅行で始まり、いよいよ学年末試験...

13歳の娘は英国では9月に中3になる。わたし自身がついこの間まで中3だったような気がするんですけど。
中3、抜群に楽しかったなあ!

最近娘にも一人前に反抗期っぽい言動があり(娘を知る人はみな驚く)わたしを怒らせるが、母親としてこの春を懐かしむ日がいつか来るのだろう。


昨夜、学校のコンサートでお隣になったお母様が、9月から日本の高等学校に相当する6th Formに進学するお嬢さんを指差しながら「うちの小さな娘、今日と明日で制服とはお別れなのよ(6th Formの服装は自由だから)」と寂しそうに言ったこと、わたしもおそらく数年後には言うに違いない。
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短編小説「桜島」




私の祖母は少しずついろいろなことを思い出せなくなっているのですが
最近はずっと彼女のふるさとである鹿児島ー市内のどこからも桜島が見えるーに住んでいると思っているようです。
お嫁にきてからもう60年以上、家業が忙しくてほとんど実家に帰ることもなく、
人生のほとんどは鹿児島を離れているというのに、です。
話をするたびに、今日の桜島、門を曲がったところから見える桜島…いつも桜島の話をしています。

私にとって、そんな風景って何かしら?と考えてしまいます。




東京のMさんから頂戴したメールの中の数行に一撃され、このところずっと「桜島の乙女」のことを考えている(「乙女」という言語センスが自分でも許せずいろいろ考えてみたが、他にふさわしい名詞が見つからない...)。

美人でしっかり者の若い女性が、日常の作業中にちょっと立ち止まったところが目に浮かぶ。
こちらからはお顔のはっきり見えない角度で、背中が黒く影になり、向こうには雄大な桜島が輝く青い空にもくもくと煙を吐いている。

サンクチュアリ。
アナザー・カントリー。

...わたしの稚拙な解説などないほうがましなのである。


この数行を読むと、神様の目(この場合は桜島そのもの)から見た人間の可憐さが切なくも美しく胸に広がりはしまいか。

そして、心が落ち着くべきところに落ち着いた人間は幸せなのである、とも思う。
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ベルギー国内旅行





毎年この季節になるとゴールデンウィークを中心にこちらへいらっしゃる方から旅行に関するメールを頂く。

旅の計画ってほんとうに楽しいですね!
質問にお答えするだけでもわくわくする。


今日はベルギー国内移動に関するメールを受け、それについて書きたい。



レンタカーをおすすめ

ベルギーは、首都のブラッセルや第二の都市アントワープの市内でもとても運転しやすいと思う。
わたしが慣れているだけかとよく考えてみたが、どう考えてもパリやロンドン市内を運転するよりはストレスが少ない。
空港からブラッセル市内へ運転して行き(20分前後)、適当な駐車場で止め、市内はどこも徒歩と公共交通機関で観光する、と。
ブラッセルの空港からブルージュへも高速1本で1時間ほどですしね。

車があると列車移動でも便利な都市間だけでなく、森や公園になっているお城や、かわいらしい村、海岸なども訪れやすい。
他にも例えばブルージュから北へ20分も走ったらオランダ、南の方向へ45分も行くと北フランス最大の都市リール...
国境超えをするだけでも車があったらいいと思いませんか。

基本的に右優先にだけ気をつけたら余裕。
オートマティック車が少ないのが難。



回数券をおすすめ

列車移動をする場合は「回数券」がおすすめ! これは絶対に買わなくてはならないアイティムだ。10-journey cardと言う。今日現在2等で76ユーロ。
国鉄の窓口や機械でも購入できるこの回数券には1枚の用紙に10回分の書き込み欄がある。乗車する都度(必ず乗車前に記入のこと)、乗車駅と最終目的駅、日付を書き込み、車内で車掌さんに印を入れてもらうのである。

これがおすすめなのは、ベルギー国内のどの駅からどの駅でも一律料金だからである。例えば西端の北海沿岸オステンドから東端のドイツ国境近くの街リエージュ(カラトラバ設計のギユマン駅に到着!!)まで2時間前後/200キロの旅、その片道料金は2等で20ユーロ60セントだが、この回数券を使うと片道7ユーロ60セント(料金は2012年3月現在)の計算になる。

複数人で旅行する場合でも1枚の回数券用紙の書き込み欄に人数分の情報を書き込めばいいので便利だ。

あまり近い区間だと普通の料金を支払った方がいいだろうが、ブルージュ/ブラッセル間、ブラッセル/アントワープ間など、絶対にお得である。いちいちチケットを買わなくてもいいのだし。


他にフランダース地方のバス会社LIJNの回数券(アントワープではメトロにも有効)、ブラッセルのSTIBメトロとバスに共通の回数券も買うべし。


どうぞよいご旅行を。
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a bad day in london is...








わたし自身は、スエードのブーツが1本ダメになるほどに天気の悪いロンドンを呪ったばかりだっただが、このアフォリズムの言うようにロンドンでのろくでもない日はそれでもそんなにいいものだろうか?
すごくよく分かるようでいてアホくさい、逆もまた真なり...アフォリズムは元々そういうものか。

ロンドンで大雨の中、巨大で無料の美術館に逃げ込むことができたのにはほっとしたな...
でも天気の悪い日は、日本の地下街の発展度が激しく恋しくなったりして(笑)。


あ、そうか、「ロンドンでのろくでもない日は、他所でのいい日より...」、これは皮肉なのか?!
英国人が言いそうではある。
そのまま素直に受け取ってはいけないのである。
いや、受けてっても全然問題はないのだが。


50 reasons London is the world's greatest city


あなたがどこにおられても、ぜひよい週末を!
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