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■林教司さんに聞く、ギャラリーたぴおのことなど

2016年04月29日 23時17分11秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
(このブログでは、インタビューで記事を仕立てることは珍しいのですが、今回はとくに林さんにお願いして、写真も撮らせていただきました。この場を借りてお礼申し上げます)

 すでに書いた通り、札幌市内でもユニークな貸しギャラリーとして異彩を放ってきた「ギャラリーたぴお」が、主宰の林教司さん(美術家、岩見沢市在住)の手を離れることになり、最後の日程として、林さん自身の回顧展が開かれています。
 そして、これも既報の通り、「たぴお」自体は5月から、大家である道特会館が直営することになりそうです。林さんは顧問になります。
 もっとも、来月以降の日程については、まだ何の連絡もないとのことです。果たして利用者はいるのでしょうか(筆者も何も情報がありません)。

 ギャラリーたぴおは1979年、デザイナー・画家の竹田博さんが開きました。
 最初は、道特会館の6階あたりにあったそうで、ほかにNDA画廊やギャラリーレティナが入居していて「ギャラリービル」として話題を呼びました。
 間もなく、レティナが1階に移動した際、レティナのC室になる予定だった部屋を「たぴお」に使わせてもらうことになり、現在の位置でスタートしたということです。
 竹田さんは2007年に亡くなりました。病床で、ギャラリーを引き継ぐように、泣いて頼まれたのが林さんでした。
 どうして自分が―と、林さんは思ったそうですが、懇願に根負けして「面倒くさくなって」引き受けました。後で聞くと、竹田さんはほかにもいろいろな人にお願いして断られていたとのことでした。

 たぴおの運営から離れるにあたっての、第一の感想は
「ほっとした」
とのこと。
「だって、赤字だもん。それでも毎月家賃は納めていたから」

 喫茶レ・ノールについては、ママが90歳近くになって引退することになり、常連客で店で話し合って、林さんがいいんじゃないかと、勝手に決めてしまったとのこと。
 改装作業はほぼ終わり、予定通り5月8日にオープンします。
 筆者は勘違いしていましたが、レ・ノールでは貸しギャラリー業務は行わず、自宅にある香川軍男さん(北見のいも版画家)の小品版画などを展示するそうです。
 いまのところ、休みは毎月第3金曜のみとのこと。林さん、働くなあ~。



 さて、ここで林さんの個展についても触れておきます。
 出品作は、2013年にたぴおで開いた林教司作品展とかなり共通しています。
 先ごろ札幌市民ギャラリーで開かれた北海道抽象派作家協会展の出品作「赫景 I」も展示されています。

 林さんは1947年、室蘭生まれ。
 20代で、独学で油彩を始め、「創作集団“わかれ”に所属。佐久間恭子さんや佐々木俊次さん(いずれも全道展会員)らがいたそうです。
 74年から全道展に出品を始めました。今回、展示したのは、75年の「月と羅漢」、86年の「異郷にて」で、どちらも全道展の奨励賞受賞作です。



 「月と羅漢」(写真左)は、人物の描写にどこか鴨居玲の影響を感じさせる1点。
 もっとも、鴨居のこういう構図の絵は見たことがありませんが…。

 林さんは室蘭から三笠に転居します。
「だまされたんだよ。炭鉱の仕事といってもボタン押すだけだから、とか言われて」
 実際に働いてみると坑内での大変な肉体労働だったとのこと。
 そこで室蘭の地球岬のことを思って描いたのが「異郷にて」です。
 冒頭画像、林さんの後ろに掛かっている横長の絵です。

 この絵は何度も見ていますが、林さんの代表作といっていいでしょう。
 「日本のシュルレアリスム絵画」にありがちなダサさのない、すっきりとまとまった構図です。と同時に、ガラス板とフォークに押さえつけられたアゲハの姿から、現実に圧迫されている画家本人の心の叫びが聞こえてきます。

 三笠に移り住んでから3年後に炭鉱は閉山。スクラップアートで知られるババッチさんとその頃知り合い、栗沢町(現岩見沢市)美流渡みるとで芸術家があつまって住むという構想に誘われて、移住しました。三笠から美流渡までは、車ではそれほど遠くありません。
 ちなみに、このときから住んでいる元校長住宅は、かつて佐藤泰子さん(札幌在住の自由美術会員の画家)が住んでいたと知って、驚いたそうです。

 林さんは1996年に全道展を退会します。
 同時に絵画から立体造形・インスタレーションに転じ、新道展に出品。いきなり会友に推挙されます。このときの、黒鉛を表面に塗り込めた重厚な作品は今も強く印象に残っています。
 翌97年、協会賞(最高賞)を受賞して会員になります。
 さらに98年には北海道抽象派作家協会の同人にもなります。
 ただし、その後は新道展も退会しています。
 
 最後に「形代 92 元慰安婦Tさんとの語らいから」を紹介します。

 この作品は、最近、頭部に鉄かぶとを描き加えたとのことです。
 元慰安婦とは、韓国人ではなく、日本人なのですが、最近、某公共施設で「慰安婦はまずい」という理由で展示を拒否されたとのこと。とんでもないですね。
 休む間もなく兵士の相手をさせられた女性の話を聞き「ひどい」と言葉を失った経験から生み出された作品です。画家の、平和を願う気持ちが、伝わってきます。


2016年4月25日(月)~30日(土)午前11時~午後7時(最終日~午後6時)
ギャラリーたぴお(札幌市中央区北2西2 道特会館)


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