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■素材としての写真拡張展 写真か? vol.2 (2022年5月25~29日、札幌)~訂正あり

2022年06月08日 10時32分57秒 | 展覧会の紹介-写真
 主宰の野呂田晋さんが、Facebookにこの展覧会のイベントページ( https://www.facebook.com/events/505074777932684/?post_id=564164785357016&acontext=%7B%22source%22%3A%2229%22%2C%22ref_notif_type%22%3A%22admin_plan_mall_activity%22%2C%22action_history%22%3A%22null%22%7D&notif_id=1653784341978315&notif_t=admin_plan_mall_activity&ref=notif )を作っているので、そこに掲載されたマニフェスト的な文章を引用しておきます。

写真は,記録・ドキュメンタリー等既存の様々な枠組みを離れ,表現者が自在に利用できるメディアとして開放されてきている.しかし,写真や写真的要素を素材として利用し表現する作家は,北海道にそう多くはない.
そこで今展は,北海道を拠点に活動する6人の作家が,写真的要素を「素材」として利用し,それぞれの見方・価値観などをもとに写真表現の可能性を探るグループ展として構成した.作家独自の視点や表現方法,そこに込められた思いなど,多彩な表現を観覧者に楽しんでいただきたい.
出展作家
おぎのようこ/神成邦夫/新堀元太/野呂田晋/堀内つつみ/山岸靖司

"Photo as a material~Extend your thoughts on photography~"
Produced by Susumu Norota
Photographs have been used as a medium that can be freely used by artists, away from existing frameworks such as recordability and documentary. However, there are not many artists in Hokkaido who use or express photographs and photographic elements as materials.
Therefore, this exhibition was organized as a group exhibition in which six artists based in Hokkaido use photographic elements as "materials" to express their respective perspectives and values. Then, each of the six people explores the possibilities of photographic expression. We hope you could not only enjoy each work but their unique viewpoints and processes.


 Facebook ページには出品者の感想や略歴なども記されており、札幌で自主企画された展覧会のなかでも屈指の充実したサイトになっているので、ぜひご覧になってください。

 
 ここまでくわしい資料がウェブに上がっていると、いまさら筆者がつけ加えることはあまりないような気がしますので、簡単に振り返ることにします。

 第1回は昨年、アートスペース201の一室で開いたそうです。
 出品者は6人で、人数は今回と同じですが、顔ぶれの半分が入れ替わりました。
 今回は市民ギャラリーに会場を移したため、各自のスペースがぐっと広がり
「5人の個展の集合 プラス それらをつなぐ山岸さんの大作」
といったようなスタイルになりました。

 最初に目に入るのは神成邦夫さん。
 このたびの出品作も「反・絶景」というか、アノニマスなありふれた郊外の風景に、たんたんとレンズを向ける姿勢は徹底しています。
 今回は「北海道図鑑」と題し、奥は、まるで1枚の風景写真を9分割したように見えますが、実は左上から右へ順に、恵庭、留萌、稚内(の空)、千歳、札幌、石狩、函館、札幌、倶知安と、すべて別の場所を撮っています。

 もっと驚かされたのは、右手にならんでいる写真。
 「稚内」「根室」「函館」
とキャプションがついていて、やはり平凡な住宅地を、広角レンズでとらえた写真が陳列されています。
 雪解けの季節だったり、青空だったり、これまでの神成さんには珍しいタイプの写真だな~と思っていたら、なんと、google map からスクリーンショットしたものだそうです。

「絶景的」なものをそぎ落とし、それでもなお画面に残存する「地域性」とは何か。
 さまざまな思考を促す展示でした。
  
 
 2人目は新堀さんです。
 幾何学的な文様のコンピュータグラフィックスと、心象を反映したような何気ない風景をとらえたスナップとが並んでいました。

 ギャラリーでの展示はあまり記憶にありませんが、「現展」には出品したことがあるとのことで、同展の関係者が多く参加するグループ展「AXIS NORTH」には昨年、出していたようです。

 前述のフェイスブックページに掲載されているインタビューでは

制作活動そのものは、10年程前からからママ行っていましたが、そういった発表の機会を自らで拒んでいました。現在も作品を発表するといったことそのものに、多くの葛藤を持っていることは事実です。

と明かしています。


 3人目のおぎのさんは、筆者はまったく知りませんでしたが、この3年ほど矢継ぎ早に発表を続けています。
 2019年の「群青」展にも出品していたようですが、記憶がありません。すみません。

 作品「記憶に似ている」は、スマートフォンで撮りためた写真を細長くプリントアウトして、布を織るように、縦と横に互い違いに組み合わせたもの。
 奥行き数メートルに達する大作です。
 端がモノトーンになっているのは「家庭用プリンターと用紙の限界です」とのこと。
 
 昨年12月の撮影から最近まで、奥から手前のほうまでおおよそ時系列に並んでおり
「乱雑に書類が詰まっていくようなイメージ。時間がたつにつれて、記憶が編み直されていく感じです」
と説明するとともに、
「強烈におぼえている場面もあれば、忘れているところもあるんです」
と、記憶の不思議さについて話していました。

 パッチワークキルトのようにも見えますが、この不規則な模様こそが、人間の過去であり、経験してきた時間であり、後に少しずつ整序されていく記憶との違いなのだろうと筆者は感じました。
 

 堀内つつみさんも、ものすごいペースで発表を続けているひとりで、二眼レフによる多重露光写真など多彩な手法で心象表現に取り組んでいます。
 先月、札幌・山鼻のギャラリーカフェ土土で女性4人が、源氏物語を主題に企画開催したグループ展にも参加していました。

 今回の連作は
『a piece of / re focus / pre : 』
と題した41点で、白いキャンバス生地にアイロンプリントで作成しており、絵画のようなテクスチュアをたたえています。
 プリントされているのは、何気ない街角の風景が多いです。

※点数を「約20点」から訂正しました。すみませんでした。


 
 グループ展を呼びかけた野呂田晋さんの「flesh」。
 一般的な写真ではない、あくまで写真を素材にした作品を手がける野呂田さんは今回、珍しく「人」をテーマにして、綿の生地に画像をプリントしました。

 もちろんただのポートレイトではありません。会場の左手は古い家族アルバムから転写したもの。
 右手にならんでいるのは、テレビゲームのキャラクターの顔を接写して、AI(人工知能)を通過させたものだそうです。
 冒頭画像も野呂田さんの会場風景ですが、そこに置いてあったフィギュアは、作品の元ネタだったというわけです。

 それにしても、AIを通過させた顔というのは、いわば「存在しない人間」を表しているわけで、あらためて人間存在とはなんだろう? ということを考えさせられます。
  

 最後は山岸さんです。
 下記のリンク先のほかにも、グループ展などに多数参加しています。
 今回の2点はいずれも、近年取り組んでいる、ファインダーをのぞかずにカメラを動かしながらシャッターを切って撮影したショットを、数メートルの巨大な紙にプリントアウトしたもの。
 フォトグラファーの意思が介在しないスタイルで、エーテルのように遍在している気や思いといったものを映し出した作品(イメージ)といえるのかもしれません。

 右側の壁をわずか2点で埋め尽くしたかたちになっていますが、ミニ個展の集積のようになったそれぞれのスペースをつなぐ、たいせつな作になっていました。


 野呂田さんは「もう来年の会場も予約しました。10年は続けたい」と張り切っていました。来年以降、どのような実験的表現が見られるかどうか、楽しみは尽きません。 


2022年5月25日(水)~29日(日)午前10時~午後7時(最終日~5時半)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)


堀内つつみさんサイト http://tsutsumihoriuchi.com/bw-photos/Welcome.html?fbclid=IwAR0L-q4j_EQS-rK_5GHW1N4cZExzOlYr4okBrc2rBOqvrSnHuSCaCD5ZW-A


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2 コメント

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Unknown (野呂田晋)
2022-06-08 17:13:25
記事にしていただき、ありがとうございます。展覧会全体、そして個々の出展者の作品に至るまで、丁寧に書いていただき感謝します。展示を企画するようになってまだ数年ですが、こういった展覧会を評していただく記事は大変ありがたいものだと改めて感じるようになりました。これからも様々な展覧会への記事執筆を続けていただけるとありがたいです。
野呂田さん、ありがとうございます。 (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2022-06-09 16:24:14
とても意欲的でおもしろい展覧会でした。
こういう作品はことばにするのはむずかしいですが、ブログの書きがいがありました。
また、Facebook ページの充実度がものすごくて、わたしなんかが何かをつけ加える必要があるのか、と思ったほどです。

本来であれば、全国的な傾向なども踏まえて論述できたら良いのですが、力不足と見聞不足によって、そういう広いパースペクティブから論じることができていないのが残念です。
来年以降もたのしみにしています。よろしくお願いします。

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