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三木俊治「行列」 旭川の野外彫刻(42)

2021年04月28日 09時38分47秒 | 街角と道端のアート
(承前)

 一つだけを見ると、金属が融解した瞬間のような抽象的な形をしているのに、ずらりと並べると、それぞれ個性を持った人間の群像が立ち現れてくる。男、女、若者、老人…。一つ一つ異なる膨大な「生」のドラマがいっぺんに展開されているようで、圧倒される。

 一九四五年栃木県生まれで東京造形大教授の三木は、国内外で「行列」のシリーズを作り続けており、旭川市の常磐公園にも野外彫刻がある。道内での個展は初めて。

 今回の「行列」は人物像約八十点を並べた。背後の壁面を規則正しく区切り、その中にホタテの貝殻やジャガイモなどを張りつけた。北海道の天地全体を表すようなスケールの大きさは、どこか曼陀羅まん だ ら を思わせる。

 人物の彫刻は高さ二十センチほど。一つ一つろうを手でこねて成形し、石こうで型を取った後にブロンズを流し込む。全体に金粉を塗って完成。型はそのつど壊してしまうので、同じ像は一つとしてない。

 一方、床には、札幌市南区藻南公園の豊平川で拾った石の上に「行列」と同じように作った人物像を一つずつ載せ、一つないし三つずつ配した。一見ばらばらに置かれているような印象を受けるが、一定の法則性が隠されており、人間社会の縮図を見るようだ。

 ほかに、木の枝やごみ袋などに金粉を塗った「美神」のシリーズもあり、こちらもいつのまにか人間に見えてくるから不思議だ。

 一つ一つの造形が一人ひとりの人間の物語を宿しているようで、いつまで見ても飽きなかった。


 以上の文章は、1996年に三木さんが、当時札幌の南3西1にあったギャラリーユリイカで開いた個展の際、北海道新聞夕刊(10月15日)に載った展覧会評です。
 著作権は北海道新聞社にあるのですが、書いたのは筆者なので、大目に見てください。

 そして、自分で言うのもなんですが、三木さんの彫刻の世界を手短にわかりやすくまとめていると思います。
 展覧会評ですが、旭川にある野外彫刻の紹介にもなっているのです。
 逆に、四半世紀の間自分は何をしてきたのか、大して進歩してないだろ、とも感じるのです。

 「行列」の人々を、仔細に見ると、決して人間の姿そっくりというわけではありません。
 にもかかわらず、遠くから見ると人間の列にしか見えない不思議。


 武田厚著『彫刻家の現場アトリエから』(生活の友社)によると、三木さんは若いころインドに旅し、その地を彫刻で表現しようと考えたそうです。

 ふつうの彫刻家なら、象徴的かつ代表的な人物を選んで造形しようと試みるでしょう。

 群衆を群衆のままで表現するという、並みの作り手には思いもつかないであろう手法により作られた作品。
 男女も老若も人種もまるで明確でしていないのに、にもかかわらず、性も年齢も民族も多種多様な人々に見える不思議さ。

 しかも、その行列を支えているのは、半円などごくごくシンプルなフォルムなのです。
 

 以前は、写真コンクールや写真愛好家のサークル展などに行くと、この彫刻の一部を撮っただけの写真がよく展示されていたものです。
 筆者は、その手の写真を見て
「この写真のおもしろさの99%は彫刻家に拠っているのに、よく自分の名前を出して作品でございと名乗れるなあ」
と、ちょっとあきれていました。
 さすがに最近はみられなくなってきたようですが。

 とにかく、常盤公園の中でも、旭川に在る野外彫刻でも、屈指の有名な作品だといえるでしょう。


 三木さんは1945年生まれ、東京造形大彫刻専攻卒業。
 この作品は、89年の第3回東京野外現代彫刻展で優秀賞を受賞し、第20回中原悌二郎賞優秀賞を受けています。
 それを受け、翌90年に設置されました。

 「旭川野外彫刻たんさくマップ」によると、300×600×150センチ。
 半円形はコールテン鋼、行列はブロンズです。


 三木さんはユリイカでの個展のほか、2007年には札幌彫刻美術館で開かれた5人展「かたちの復権」に、08~09年に札幌・山鼻にオープンした(その後閉鎖)アトリエムラ・ギャラリーでのこけら落とし展に、それぞれ出品しています。





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