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本郷新「無辜の民」ー石狩・厚田アートの旅(2)

2018年07月30日 23時01分39秒 | 街角と道端のアート
(承前)

 7月29日、まず立ち寄ったのは、札幌出身で日本の近代彫刻を代表するひとり、本郷新の代表作「無辜むこの民」。

 下のリンク一覧にあるとおり、筆者は、本郷新の野外彫刻のうち道内にあるものはかなり見ているけれど、「無辜の民」は初めてだ。



 この作品の所在地については「石狩浜」と表記されることが多い。
 筆者は、砂浜の波打ち際に転がっているものとばかり思っていた。

 実際には、海水浴場の内陸側を通っている細い道路から、さらに100メートルほど内陸に入った、ハマナスなどが咲く原野の中、台座の上に設置されている。
 彫刻のある場所からは、海はほとんど見えない。


 いろいろな見方があるとは思うが、これほど重苦しい気持ちに襲われる彫刻はあまりないと、筆者は思う。

 ここには、人間性への賛歌や世界の肯定といったものはない。
 体をぐるぐる巻きにされ、頭部を失い、人間の尊厳を根こそぎ奪われた存在が、転がっている。

 この彫刻には、作者・本郷新の、人間を縛りつける一切のものや、人間を否定するすべての時代・状況への、激しい憤りが込められているのだと思う。



 ときどき「本郷新のヒューマニズム」などということがいわれる。
「泉」や「道東の四季」にヒューマニズムが込められていないとまで断言するつもりはないが、その語を持ち出さなくても、それらの作品について語ることはできる。
 しかし、この「無辜の民」に関しては、ヒューマニズムの語を抜きにしては、語ることができないのではないか。

 「無辜の民」は本郷新が晩年、15点を制作した。
 いずれも小品だったが、そのうちの1点を拡大し、自らが愛した石狩浜への設置を望んだ。
 ただ、生前にはかなわず、石狩町(当時)の住民たちの運動によって、実現したという。
 除幕式は1981年6月30日だった。

 シリーズ全体をみると、ベトナム・インドシナや中東での戦火の犠牲になる民衆への同情と戦争への怒りが、作品の基底をなしているようだが、この石狩の作品については、厳しい開拓の途上で息絶えた人々やふるさとを追われるように北海道に新天地を求めて来た人々への思いも重なり、作品そのものにこめた思いが重層化しているようだ。
 この石狩浜は、道内あちこちの開拓地へと向かう人々が上陸する土地でもあったのだ。
 本郷新記念札幌彫刻美術館のサイトには、この作の台座が船の形をしている、とある。開拓民たちを乗せた船が含意されている。


 台座には、つぎの言葉が刻まれている。

この地に生き
この地に埋れし
数知れぬ無辜の民の
霊に捧ぐ

 一九七九年
   本郷新

 


 ベトナム戦争などは、制作当時の特有の事情である。
 にもかかわらず、この彫刻の意義は失われていない。
 人間の尊厳を奪い、権利を奪い、人間らしく生きられる環境を奪おうとする力は、まだ厳然としてあるからだ。



 ところで、「石狩―無辜の民」について語り合うイベントが、8月5日午後5時から同像前の特設会場で開かれるとのこと。
 第1部では、本郷新の孫で俳優の弦さんが、祖父が残した言葉を朗読。札幌大名誉教授で詩人の原子修さんによる詩「石狩川」の朗誦ろうしょうも行われる。
 6時からの第2部は、作品から200メートルほど北側にあるカフェ「マウニの丘」で、無辜の民について語り合う。定員60人で参加費千円。

 関連事業として、市民図書館(花川北7の1)で、31日~8月5日に「無辜の民」15点が展示される。
 4日午後3時半からは本郷新記念札幌彫刻美術館の山田のぞみ学芸員が「本郷新の人と芸術」と題して講演する。

 なお「無辜の民」は、先にも書いたとおり、ハマナスが咲き乱れる原野の中に置かれており、近くに駐車場はない。
 いや、夏場は、海水浴場の駐車場がすぐ手前(南側)に設けられているが、1回とめると千円ぐらいかかる。
 作品にいちばん近い道路は、海水浴場の内陸側を、石狩灯台まで南北に走っているが、センターラインもないような細い道路で、海水浴シーズンに路上駐車するのはためらわれる。駐車禁止の看板も立っている。

 筆者は、石狩弁天社の附近に空きスペースを見つけて車を止めた。
 海水浴シーズンを避けたほうが、車を止めやすいと思われる。



□本郷新札幌彫刻美術館のページ http://www.hongoshin-smos.jp/sculpture/mukonotami-ishikari.html


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・中央バス札幌ターミナルから石狩線に乗り終点の「石狩」降車、約890メートル、徒歩12分




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